雲南作戦(十二)

 その後、残された本体も、長くはそこにとどまらず、程なく仏印方面軍に編入されて、その地域の守備に当たるという幸運な布令が来た。今度は旅程が長いので、全員が汽車輸送と決まった。すでに車両は残り少なになっているので、部隊の方で手を回し、輸送参謀に何か贈り物をしたとかで、案外楽に乗れるだけの貨車の割り当てを受けることができた。しかし、我々騎馬隊は、馬と一緒に貨車に載せられて、馬首の下で食事をし、わらとまみれて寝るのだ。荷物扱いでなく、馬並みのお客ということになった。

 列車といっても、昼間は敵機の襲撃があるので走れず、夜だけ走って、夜が明けるとまず次の駅へついて、車両を疎開させ、人間と馬だけが降車し、近くのジャングルに入って、飯を炊いて食い、昼寝をし、夕暮れにまた車に乗り込むというきわめてのんびりした旅だった。

 ある朝、少々時間が遅れて、目的地の駅に入る前にすっかり夜が明けてしまった。そのため、敵哨戒機に見つかって銃撃を受けたことがあった。我々は貨車だから扉を閉めていると、夜が明けても中は暗いから、いい気持ちで寝ていると、機関車に乗っていた現地人の助手が大声で、

「飛行機、飛行機。」

 と怒鳴るので、驚いて貨車から飛び出して乾ききっている田圃(タンボ)を蜘蛛の子を散らすように逃げた。どこまで逃げても田圃では遮蔽物も無い。しかし、狙われるのは列車だから一歩でも遠ざかることが被弾から免れるただひとつの途の訳だ。二百メートルくらいは転げるように夢中で走って、畦(アゼ)の陰に伏せ、恐る恐る辺りを見回すと、遠く、近く、転々と伏せている兵の姿が見える。そして遥か西の空に、初めて見る敵ボーイングB二十九と思われる四発大型機が一機現われ、悠々と頭上を通過する。するとまた一機という具合に、一定の間隔を置いて、まるで我々など眼中に無いといった落ち着き払った姿で飛び去っていくのだ。

 こんなことならあわてて飛び降りることも無かったといささか拍子抜けの態でいると、何ぞ図らん、敵機はまるで別の方向から地面すれすれの超低空で現われ、あっという間に、停車している列車を拝み撃ち機関砲を浴びせて飛び去った。機関車は湯気を白く吐き出し、使い物にならなくなってしまった。こうしておいて、また引き返して爆弾でも見舞われてはやりきれないと思ったが、幸いにそれっきり姿を見せなかった。機関車をやられてはどうにもならないので、ひとまず全員がその近くの部落に退避して、寝てしまった。

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