基隆には三、四日の停泊で何も積み込まず、またもとの七隻の輸送船団と二隻の駆潜艇の護衛で、台湾海峡を南下することになった。基隆港を出た後、甲板から兵隊が一人海中に落ちたとかで、二回ほど同じところを旋回したが、暗夜のためわからぬまま通過してしまった。
丸一日くらいの航海で船団は高雄港外に到着した。この辺りは波も静からしく、防波堤も何も無い全くの港外に大小様々な船が無数に碇を投じていた。我が船団もすぐに港へ入らず、その群れの中に投錨した。ここはもう南洋に近いだけに、直射日光はキラキラと眩しく、船内はまるで蒸し風呂のようだった。
特に食事は大抵出来たての熱いものばかりなので、大汗をかきながら食べ、終わるとすぐに甲板へ逃れて涼をとった。風も無く、熱帯の太陽がギラギラ照りつけ、動かない船内はまた一層暑苦しかった。そんなある日、甲板上で涼をとっていると船員の一人が、
「ふかじゃ、ふかじゃ」
といって甲板を走っていくので、後を追って海を見ると、なるほど三本もあろうかと思われる薄黒い魚が、船腹に沿って悠々と泳いでいる。一斗樽を鼻先でゴンッゴンッとやってから姿を消した。退屈凌ぎにはいい余興だった。
二日ほど港外に停泊してから、船は港内に入ったが、港外の船団が余りに多かったので、港の中は狭すぎて窮屈な感じだった。ここで一日がかりで、高射砲、上陸用船舶や食料なども積み込んだ。その上、工兵隊なども乗り込んできたので、船内は一層狭苦しい感じになった。一日くらいまた上陸させてくれるかと楽しみにしていたが、とうとうそれは許されず、三度船団を組んで南下を開始した。高雄港に入る時、湾の入り口の民家の前で、大きな日章旗を振っていた女の和服姿が印象に残った。
高雄港で積み込んだ食料はかなり豊富なものだったらしく、それからは船内の給仕は相当良くなった。海は全く穏やかで、小波さえ立たず、文字通り油を流したようだった。来る日も来る日も青黒い大海原と白い雲と僚船の姿が見えて、少しも船は進まないのではないかと錯覚を覚えるくらいだ。船団は高雄を出る時増強されたらしく、遥か水平線の彼方まで船が続いて見えた。何隻くらいあるのか良く分からない。